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zoom RSS 対空砲火について

<<   作成日時 : 2016/02/01 23:34   >>

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僕は度々ここで、太平洋戦争における帝国海軍の対空砲火について考えてきました。以前は帝国海軍の代表的な高角砲である50口径三年式12.7センチ砲(50こうけいさんねんしき12.7せんちほう)について考察したこともあり、そこでの結論として、帝国海軍は航空兵力の脅威は十分理解しつつも艦隊戦を優先したため、駆逐艦の主砲を高角砲に切り替えることをしなかったとしました。要は帝国海軍は対空砲火の強化を諦めたのです。

それに対してアメリカ海軍は艦隊の対空防衛策を真剣に検討しました。輪形陣という陣形は有名ですが、この陣形はそもそも戦艦を護るための艦隊陣形でした。艦隊上空に侵入した航空機から戦艦を護るために編み出された非常に贅沢な防御陣でして、二重三重と巡らした円陣の中心に低速の戦艦を配置した重厚な艦隊陣形でした。このような主力艦を防衛する思想を空母機動部隊に応用したのが輪形陣として知られる陣形になります。

対空砲火の強化を諦めた帝国海軍は艦隊の対空陣形構築でも出遅れました。ミッドウェイ海戦でも南太平洋海戦でも空母を護るために輪形陣を組んでいません。非常に残念ですが帝国海軍は艦隊の効果的な対空弾幕の研究を太平洋戦争中期までしませんでした。研究しなかった結果、航空機の迎撃は各艦が個別に対応するしかなかったのです。機銃も高角砲も目測でバラバラに各銃座が射撃していたのが現実だったのでしょう。だから帝国海軍は、どのみち空母を大量喪失するリスクを常に抱えて機動部隊を運用していた訳でして、機動部隊の空母が全滅するのは時間の問題だったのかもしれません。たまたまミッドウェイ海戦で空母が全滅したのであって、それはいつ起きても不思議ではありませんでした。

では、仮に帝国海軍が太平洋戦争開戦時から輪形陣を展開できるだけの研究が出来ていたとしたら、その運用に対し、いかなる問題が考えられるでしょう?

まず発生するのは駆逐艦不足です。帝国海軍は艦隊決戦を前提とした軍備増強を推し進めたため水雷戦隊の拡充を最優先しました。その結果太平洋戦争勃発時、帝国海軍は6個部隊もの水雷戦隊を編成していました。1個水雷戦隊に所属する駆逐艦は12隻から16隻にもなります。これだけで80隻もの駆逐艦を必要とします。航空戦隊(空母部隊)直属の駆逐艦は2隻か3隻しか割り当てられておらず、おまけに旧式艦でした。対してアメリカ海軍は空母1隻に8〜12隻の護衛艦を開戦前から編成していました。日米では空母の脆弱性に対する備えが根本的に違っていたのです。

真珠湾奇襲作戦で空母を護衛していた駆逐艦は、第1水雷戦隊と第2水雷戦隊に所属していた混成部隊でして、かなり無理のある部隊編成だったと思います。南雲機動部隊はロクに対空射撃訓練もしていない“水雷屋”によって護衛されていたのですから、そりゃあ南雲提督も不安だったことでしょう。艦隊上空に空襲があったらひとたまりもないのですから。

どうにか苦労して輪形陣を組める駆逐艦と巡洋艦を揃えたとしても、今度は艦隊の対空火力不足が問題となります。空母には高角砲を搭載していても駆逐艦には高角砲がありません。そもそも帝国海軍の防空火力は急降下爆撃に対する備えがないのです。12.7cm高角砲も25mm機銃も雷撃隊と水平爆撃隊を攻撃対象としていた兵装でした。25mm機銃の有効射程距離を2000mとしていたのも雷撃隊と水平爆撃隊に対する備えでして、急降下爆撃を阻止するなら3000mの有効射程距離を誇る兵装でなければ意味はありませんでした。アメリカ海軍がボフォース40mm機銃という兵装を備えたのは急降下爆撃への備えでして、その有効射程は3000mです。急降下爆撃機が爆弾を投下準備するのが高度3000mなので、それ以下の高度で射撃をしても爆弾投下を阻止できません。帝国海軍の空母たちが急降下爆撃で致命傷を負ったのは、決して慢心でも油断でもありません。防衛手段にもともと問題があったのです。「敵機直上ぉ!!」と見張員が叫ぶとき、帝国海軍の艦船は回避運動しか選択肢がなかったのが実情だったのではないでしょうか。

帝国海軍の対空兵装での問題点として、25mm以下の機銃を装備していなかったことも挙げられます。機銃による弾幕の最大の目的は航空機の撃墜ではありません。攻撃を断念させること、つまり追っ払うのが目的です。濃密な弾幕を展開する事で攻撃機の接近を阻止するのが最後の防衛手段でした。当時の技術では時速300km以上で飛行する高速目標を捕捉して撃墜するのは近距離ではほぼ不可能でして、それはレーダーによる射撃管制装置を備えたアメリカ海軍でも同じです。艦船に2000mまで接近した目標に対し日米共に目測で射撃をしました。この場合、いかに短時間で濃密な弾幕を展開できるかが勝負になってくるので機銃の発射速度が重要になってきます。

帝国海軍兵装:25mm機銃実用発射速度 毎分130発
アメリカ海軍兵装:20mm機銃実用発射速度 毎分250発

25mm機銃は1秒で2発発射でき、20mm機銃は1秒で4発発射できる計算となりました。命中時の威力や有効射程距離など違いはありますが、短時間で弾幕を展開するのに有利なのは20mm機銃ではないでしょうか。機銃による弾幕の展開には発射速度以外でも日米で差がでました。アメリカ海軍は目測による機銃の射撃訓練を重視していたのに対し、帝国海軍はアメリカ海軍ほど徹底しなかったのです。艦隊決戦重視の訓練プログラムがここでも仇になったと言うことも出来ますが、単純にアメリカ海軍の訓練で撃ち放題が可能な国力の差もあるかもしれません。やっぱり弾薬はいつの時代でも高く、魚雷1本が現代価格で1億円だったりするので訓練の質に差がでるのは仕方がないような気がします。

輪形陣を採用するほど帝国海軍が艦隊の対空戦闘を重視していたら、史実よりは弾幕を展開できたかもしれません。でも、決定的に日米で差がでるのは射撃指揮装置(GSCF)でしょう。一説では帝国海軍の12.7mm高角砲とアメリカ海軍の5インチ砲の航空機の命中率の差は0.3%対50%という統計結果でして、驚くべきことにその比率は167倍にもなるというのです。射撃指揮装置はレーダーや測距儀により捕捉された目標を射撃番(計算機)により修正し未来予測位置を割り出し照準を決定する代物です。日米では計算機の性能が隔絶しており、帝国海軍の射撃指揮装置の射撃番は半分は人間による手計算でした。ただでさえ帝国海軍の高角砲は旋回速度が遅いのに、射撃指揮装置の誘導も正確でない上計算速度も遅いのですから実戦で目測射撃に頼っていたのは仕方がないのかもしれません。目標まで10kmもあるのに目測で射撃しても当る訳もないのですが。

お判り頂いていることと思いますが、たとえ帝国海軍の駆逐艦の主砲が高角砲で武装して艦隊を輪形陣で防御していたとしても、空母を護る艦隊の対空砲火はやっぱり脆弱だった可能性が高いようです。

太平洋戦争勃発以前。帝国海軍は艦隊の対空戦闘訓練を実施し、訓練の結果航空隊は戦艦長門を“撃沈”する戦果を残したそうです。有名な航空参謀である源田實氏によると戦艦は100機による攻撃隊に「なす術が無かった」と回想しております。

この訓練の結果が影響したのかわかりませんが、帝国海軍は艦隊による対空防衛を半ば諦め上空の護衛戦闘機に全てを託した格好となり、空母は自力でなんとかすることになったようです。まあ史実ではなんとかならなかったのはご承知の通りですが。

帝国海軍と違いアメリカ海軍は艦隊上空の脅威とずっと向き合ってきました。その集大成という訳でもないでしょうが、大戦中ついに近接信管(VT)を実用化し艦隊の防空火力を更に分厚くします。国家予算10億ドルという巨額の予算を投入し開発に成功しました。この予算額は原爆開発に匹敵する内容です。

かなり長くなってしまいましたが、ここまでお付き合い下さりありがとうございました。

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コメント(2件)

内 容 ニックネーム/日時
記事を読ませて頂きました。
次に太平洋3のキャンペーンをプレイする時は、日本側の対空火力を弱体設定にしようと思いました!!
さらに敵の対空火力を1.2倍設定にしたら砲撃戦を仕掛ける展開になるかな・・・

日本はやってきた敵艦隊を迎え撃つつもりで、味方制空権下だから防空の優先順位は低かったのでしょうね。
米国艦隊は敵制空権下に入りこんで戦うつもりだったので、防空に気合入れたんでしょうね。

日本海軍機は速度は速いけど防弾が弱いのも、自分達同様に敵も防空は戦闘機頼りで対空砲火は大したことないって思ったのでしょうね。
うらマッハ
2016/02/07 19:11
うらマッハ 様

いつもコメント頂きありがとうございます。

>次に太平洋3のキャンペーンをプレイする時は、日本側の対空火力を弱体設定にしようと思いました!!

マジですか!?期待してもいいのでしょうか?今の僕にはそのような勇気も実力もないのでとても楽しみです。是非ともご検討よろしくお願いします。

今回の掲載では帝国海軍に手厳しい内容となってしまいましたが、当時の日本の国力を考慮した場合、まず南雲機動部隊のような機動部隊を組織し運用し、おまけに優秀だったこと自体、驚異的なことだと思います。

明らかに日本の国力を超えた軍事力が機動部隊だと僕は考えており、空母6隻を運用するだけでも大変な負担でしょう。戦艦1隻の維持費より空母1隻の維持費のほうが絶対高かったはずです。ですから南雲機動部隊で真珠湾奇襲成功という実績だけで、国力を考えた場合もっと評価していいのかもしれません。でも、無理をして築いた機動部隊はゼロ戦同様、防御を捨ててなんとか成立していた為ゼロ戦同様撃たれ弱かった側面は仕方がないのでしょうね。
アクタ
2016/02/09 23:07

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